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Appleの新商品記者発表〜ブランディングにおける企業文化の醸成と惰性〜

同居人がAppleファンなので、誘われて初めてAppleの新商品発表会をオンタイムで見ました。
英語もシンプルでわかりやすく、巷で「プレゼンの教科書」とも言われているAppleのプレゼン。今までフル見ていなかったというのも、元広報としてお恥ずかしい限りです。

が、同時にこれは社内は相当苦しいのでは?と思ったので、独断と偏見+数字的根拠ゼロで語ってみます。また、広報時代には見ることができなかったユーザー(ファン)(同居人)のリアルタイムの反応が見れたこともかなり勉強になりました。

 

2018年9月12日(水)グリニリッジ時間18時。
もはや「定番」となったAppleの商品発表会が始まりました。「定番」になってしまったというところで、Appleの広報・ブランディング部門は、この記者会見を文化として続けていくか、惰性とみなしてやり方を変えるもしくはやめるかの判断の瀬戸際にきていると思います。
間違いなく、Appleは世界でもっとも有名な会社のひとつで、ブランディングも一流(のはず)です。ですが同時に、わたしが前職で関わっていた記者・ブロガー・Tech geekのひとたちが「Appleの商品会見は、一変通しで何も生まれない」とこぼしていたことが頭をかすめます。もちろん、発表内容がある程度の話題やこれからの業界の指標にはなりますが、ブランディング向上という目的でのAppleの記者会見は、スティーブ・ジョブズiPhone発表が明らかに頂点だったと思います。

 

 

前職広報で2年半、1年間に30〜50メディアを集める新商品記者発表を年2回やってきました(タレント抜き)。広報系の書籍にも載っているのですが、通常新商品にまつわる記者会見は約2ヶ月前から準備を始めます。ざっくりとした理想の順序は以下の通り。

 

  • 2ヶ月前:実施日決定のための他社情報探り開始、社内ネタ探し、会場当たり、ムービー構成検討(これはかなり遅い、というかプロダクトのマーケがやってくれ案件)
  • 〜1ヶ月前:ネタ決定〜スクリプト構成始め、親子会社・関係会社への出演含めたネゴ開始、メディアへの当たり開始、ムービー撮影開始
  • 2週間前:プレスリリース着手開始、会場備品レイアウト詰め、スクリプト詰め
  • 1週間前〜当日:デモ設定、全ての書類詰め、社内共有、リハ

 

うーん懐かしい。正直、学祭みたいなもので、1週間前くらいから異常なアドレナリンが出るんですよね。だから、今回プレゼンターが興奮していたのはよくわかります。あぁ、広報やりたいなあ。

話は少し逸れますが、プレゼンターの興奮も内容が観客に伝わっっていないと内輪向けなのかと興ざめさせてしまう要素のひとつとなります。かといってクールすぎても重苦しい雰囲気になってしまいます。あくまで、いくら先進的なもので自信があっても、ユーザーに正しく届けることが大前提なのです。

 

わたしは全ての実務をこなすなかで、記者発表会のネタになってしまったプロダクトやサービスの人たちの「余計な仕事に巻き込みやがって‥‥」という静かな怒りを毎回感じていました。デザイナー始め実際にサービスを作っている社員は、普段やらなくていいような記者対応の練習などが増え、負荷が大きくなります。さらに、普段ならサービスに大きく口を出してこないような幹部たちのuser orientedではない要望に応えなくてはいけなかったり。でも、Appleのような会社ではuser orientedではない幹部なんてきっといないのかも。

ただ、この記者発表のネタになることは悪いことだけでなく、自分たちのプロダクトが外から見てどのような価値があるのかもわかるし、時流に乗っていることが分かるので、社内のブランディング向上にも寄与していると言えます。

 

以下、今回の発表をふまえての個人的な疑問2点です。

★ユーザーへの最大のメッセージ/メリットはなんなのかが不明瞭

今日の発表を1行でまとめたら、「Appleはこれからも公共性もあり、技術力が高く先進的な商品を発表します」です。‥いや、知ってるよ!っていう。

SWCなど欧米で多く行われているTechイベントにも各部門のマネージャーなどが登場していますが、その人たちが各技術の話をするのでも同じメッセージは伝えられるでしょう。

要は2時間にいろいろ詰め込みすぎなのです。人間が集中できる時間は70分程度と言われています。そして覚えられることはせいぜい3つ。新商品発表会なら、そして消費者向けにするなら、どうやったら楽しいのか、もっと機能面に寄せることができます。

ただ、ここでいう「消費者」の定義が大変曖昧です。世界中に配信することで、わたしの同居人のような1ユーザーから、現地の記者まであまねく範囲の人間に何かしらの「NEW」な情報を与えなければなりません。

そのため、各商品の機能面や技術面で、それぞれ「NEW」を持ち寄るしかありません。すると、個々をもっと詳細に見たらすごく新しいことも、発表のなかでどんどん流されて過ぎていってしまう。
その「NEWを」シンプルに、わかりやすく伝えるために、プログラマーやデザイナー、プロモ担当、広報がどんなにがんばったことか。シンプルにしたものもたくさん寄せ集めたら、ただの質の高い寄せ集め。聴衆は何一つ覚えてないんです。なんてもったいないんでしょう!!!そのネタ、ひとつでいいからうちの会社にください!!!

例えば、DSDS(デュアルシム)はファーウェイなど格安端末にすでに搭載されているとはいえ、Apple製品には初なので個人的にはかなり魅力的。リアルタイムに処理ができる機械学習が搭載されていることもいかにAppleがAIに力を入れているかの証拠。リサイクルシステムも大して会場から反応はありませんでしたが、世界的リーディングカンパニーのひとつとしてきちんと人類存続の仕事をしつつそれでいてuser orientedな取り組みです。いくつでも記事が書けそうなネタがたくさん‥なのに!だからこそ、「本当に使っている1ユーザーへの明確なメッセージが伝わりにくい」構造になっていると思います。

 

 

ブランディング面から、なぜ新商品発表をあの形にキープしようとしているのか、明確な目的が見えない。

Appleのイメージは長年培ってきた「先進的、クール、デザインと機能が優れている」に加えて、昨今は「もう完璧に新しいものは生まれないのでは、高価だ」というネガティブなイメージが付いているように思います。
Appleの新商品発表会と聞くと、完璧に新しいもの=初代iPhoneのようなもの、と期待値が上がってしまうのです。いくらAppleとはいえ、初代iPhone発表みたいなこと毎回できるわけがないです。Appleファンのわたしの同居人もそれは重々承知の上。それでも、前回も今回も朝から楽しみに待っていました。が、やっぱり期待を裏切られてしまう。

前述のように、もちろんよく見ていると数え切れないほど沢山のNEWがあります。なのに、多すぎて見つけられない&忘れてしまうから「今回も驚くような何も新しいことはなかった」という感想になってしまう。

それなら、リアルユーザー、Tech geek、経済記者、Public sectorなどターゲットを区切り、もっと深掘りした内容をそれぞれに伝えることで、「やっぱりAppleは先進的で、クールで、デザインも機能も最高。いつも新しいものをつくっているリーディングカンパニーで、だから高くても買いたい!」と思わせる努力にシフトチェンジした方が良いと思います。これ、めちゃくちゃ「言うは易し」ですが。

ですが、ポジティブで統一したイメージやメッセージを、どの側面からも伝えることができたらブランディングとして最高に理想だと思います。

 

突然ですが、わたしだったらこうするぞ「Appleの新商品発表」

・全世界同時配信の共通中継:企業トップの商品にかける想い(ユーモアも必須)
・(同日時ネット上で)各商品のプロモV公開:今回会場で流したものと同様(プレゼンのサマライズ版と単純な商品プロモ)※そもそも、プレゼンのサマライズVっているんですかね?

・(同日時ネット上で)デモ版公開、デベロッパーとのチャット
・(同日時本社会場で)経営、技術、機能それぞれのプレゼン。ただし、製品ごとではなく、「AI」「カメラ」「VR」など機能ごとで。

 

わたしは初代iPhoneから使いつつも、Appleファンではないのですが、トップ企業のプレゼンをオンタイムでみてすっごく勉強になりました。個人的に一番興味を持ったのは、プレゼン内に見えたマーケット&ターゲットチェンジです。先進国のほとんどが高齢化社会になっていく今後、その社会をどう維持し、かつその中でどのように稼いでいくかは各企業共通の命題といえます。

そして、Appleがこれまでの「先進的で、クールで、デザインも機能も最高」という消費者向けのイメージを持ちつつ、「アメリカの高齢化社会におけるセルフヘルスケア市場への挑戦」というテーマでマーケットシフトをしているのではと感じました。これだけ世界中にユーザーがいる巨大企業ですから、次のステージは社会インフラ化です。いまあるイメージのままに、ヘルスケア関連もとい公共問題を解決(というかそこから儲ける)ことに挑戦しようとしているのか‥‥‥Appleのリリースか、経済系の記事書いている人探してみようかな。

 

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難しい話だったので、最後に。近所の幼稚園、その名も「じゃがいも王国」。いや‥いくらドイツ人じゃがいもすきだからってここまでくるとほんと‥‥‥。